(13)点滴で疲れがとれるか?

 「点滴」は医療機関で行う治療の代表的な物です。「点滴」はすごく体に良くてめきめき元気になる、そう思っている方は多いかもしれませんが、本当にそうかな?
 「先生、疲れて調子わりぃから点滴してくりぇや」(諏訪の言葉です)という人がときどきあります。点滴すると疲れがとれるのか? 実は全然とれません。健康保険でも「疲労回復に点滴」という治療は認められていません。昔はブドウ糖にビタミン剤をいれて注射なんかしたらしいですが、35年前に私が医者になった時すでにそういうやり方は淘汰されていました。
 そもそも点滴とは何か? 普通に使う点滴用の製剤は500mlのボトルに塩分少々と糖分少々が入っています。それだけです。特別なお薬は入っていません。蒸留水を血管内に流し込むと体が壊れるので、塩分糖分を少し足して血液の組成に近づけて刺激がないようにしています。はっきり言って点滴してもほとんど水が入るだけなのです。
 そんなもの何の役に立つんだ?と思うかもしれませんが、体の中が水不足になる事は意外にあるものなのです。たとえば、急性の胃腸炎で下痢して吐いてる時には、体から水分がどんどん抜けていってしまいます。ひどいと血圧が下がってふらふらになる。いわゆる脱水状態です(医者は「脱水症状」とは言いわない!)。でも吐いてしまうから口から水分補給ができない。こんな時が点滴の出番です。血管から無理なく体に水分を入れて脱水を改善させる。そうしておけば胃腸炎が治るまで時間をかせぐ事ができる訳です(胃腸炎を治す訳ではない)。診療所で点滴をするのはだいたいこのような胃腸炎の患者さんですね。あとはめまい発作で吐き気がひどくて食べられないとか、あるいは軽い熱中症でふらふらしてるとかぐらいです。点滴が必要な状態は他にもいろいろありますが、それは「病院」でやってもらってください。
 というわけで、点滴はあくまで急場をしのぐための水分補給であって、体力をつけるものではありません。疲労を回復し体力をつけるためには口からちゃんと食べてしっかり休養するのが最高級です。世の中にはもっと栄養価の高い高級な点滴製剤がありますが、そんな物をやっても死なないだけであって活力を取り戻すことはできません。それは現場で患者様をみているとよーく解ります。
 診療所に来ていきなり「点滴してほしいんですけど」なんていうと私の機嫌は極端に悪くなります。ご注意下さい。